ヒュンヒュンと風を斬る。


「どうして芹沢さんを?」


あの横暴な芹沢を好きという人は珍しい。


特に穏やかそうな楠のような若者なら、同じように穏やかな近藤や山南、それか年齢も近い沖田辺りを尊敬しそうだ。



「あの方は、ほんまに素直なお人やないですか。 思う通りに行動してしまうせいか、誤解を招きやすいけど……俺は、お慕いしとります」


それにと、楠は続ける。


「子供に優しい人に、基本的に悪い人はおりません」

「子供?」


芹沢と子供の関係が分からず、首を傾げた。

矢央のイメージには傲慢で横暴だが、実は物事を奥深く考えていて頭のキレるイメージがあった。

そして、お梅という女性を一途に想う優しい人という一面も知っていた。


「あれ、知りませんか? たまに壬生寺で子供達と遊んではるんですよ。 あっ、沖田先生もよく一緒にいはりました」


沖田と一緒になり、子供と遊ぶ芹沢。

沖田ほど頻繁に遊んでいるわけではないが、酒を飲んでいない日はたまに遊んでいた。


また意外な一面を知る。



「そうなんだ……。 私も、芹沢さん好きです」


やはり、悪いだけの人はいない。

そう思うと、優しい気持ちになれた。


「せやけど、矢央さんは近藤局長もお慕いしてるやろ?」

「はい! 近藤さんも好きです」

素直に頷く矢央を、何故か切なげに見つめていた楠。


「そのお気持ち大切にして下さい。 道を迷わないように」

「―――え?」


楠は竹刀をしまい、呆然として自分を見る矢央に一礼をして道場を後にした。


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