「あ、あの…間島さん」

「矢央でいいですよ! 楠さんの方が年上っぽいし」


とは言いながら、矢央の方が堂々としている。

そう言われた楠はというと、やはりおどおどして落ち着きない様子で道場内に入って来た。


「あの…やったら、俺の事も小十郎って呼んで下さい」


恥ずかしそうに微笑んだ姿は人が良さそうで、とても剣を扱って人を殺せるようには思わなかった。


竹刀を持って素振りを始めようとする楠に、矢央は座ったまま問いかける。



「小十郎さんは、どうして壬生浪士組に入隊したんですか?」

「……えっ!? な、なぜ?」


竹刀を持つ手が微かに震えていた。

何故そんなに挙動不審なのか。

だからこそ、矢央はそのような質問をしてしまうのだ。



「うーん、小十郎さんを見ていると戦いとは無縁のように思えて。 あっ、だって小十郎さん虫すら殺せなさそうな優しい顔付きだし」

「それはつまり、弱そうに見えるわけですか?」


苦笑いで、頭をかく楠。

矢央は目線を逸らした。


「いや…そういうわけじゃ……あっ! もしかして、近藤さんたちに憧れてとか!?」


上手く言い逃れようと、無難なことをあげてみる。

さして嫌な思いはしていないと楠はやんわり笑みを浮かべ、今度はスーッと息を吸い込み瞼を綴じた。


音が止み、重い空気が立ち込めたが、嫌なものではない。


柔そうに見えたけど、この人……強い。


ジッと矢央が見つめた先にいる楠は、綴じていた瞼を持ち上げるとザッと前へと竹刀を打ち込んだ。

ヒュンと重く素早い音。


「……どちらかといえば、俺は芹沢先生の方が好きかもしれまへん」


最初の一撃の後は、普通に素振りを始めた楠は口を開く。


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