「ふぅ~~ん、そういう楽しげなことしてたのねぇ。」


ゼアがニヤニヤしながらナオの部屋に入ってきた。


「ゼア、もしかして・・・ずっとのぞいてたのか?」


「先生しかいない部屋で楽しそうな先生の声がすれば、いったい何をしてるのか知りたくなるのはあたりまえじゃないかしら?」

「う・・・だから、その・・・」


「いいんじゃない。いつも顔をあわせていると言えないことも、いなくなってみると言いたくなる。なんていうのもあるし。
それに、先生がとても楽しそうな顔をしているのが、私にとっても幸せよん。」


「ゼア・・・あのなぁ・・・・・くっ。うっ・・・ううっ・・あぁーーー!」


ナオは突然、座っていた椅子から滑り落ちるように、床にひざをつくと、魔力を消耗したように、苦しそうな息づかいをしていた。

そして、その後に上半身が焼けつくように熱くなった。

「どうしたの?ナオ!大丈夫?」


「大丈夫だ・・・ふぅ・・・」

額から汗をぬぐいながら、ナオはなんとか自力で部屋のベッドに転がった。


「いったい、今のは何なの?すごい魔法でも使ったの?」


「いいや。千代ちゃんとさっき話しただけ。
もうあっちの結界もないし、いつも千代ちゃんからの魔力を拾うだけだから、消耗なんてしてないよ。
でも・・・」


「でも?原因はわかってるのね。」


「僕の中の何かが、僕をテレポートさせようとし始めた。だから、千代ちゃんと話し終わるまではけっこうがんばって抗っているかも・・・。ははっ」


「抗うって?千代ちゃんはもどってくるんでしょう?」


「ああ。もどってくるけど、待てない俺がいる・・・たぶん、それは贄の呪縛というか贄の記憶なのかな。
救世主との契約を何が何でも優先しようとする俺が、体の中に巣くっているんだ。」


ゼアはナオの脈を診ようとナオの手をつかんだ。

「あつっ!!何なの!熱いお茶の入ったカップのようだわ。熱?」


「千代ちゃんの声きいちゃうと興奮しちゃうのかなぁ・・・。な~んて・・・ははっ」


「笑いごとじゃないでしょ!いつからそんなことになっちゃってるの?」