「グルルルルル……我が主への行い、我が爪牙でその身を散らせ詫びさせてくれる!」

怒気をはらんだクロスメイアスの声が辺り一帯の空間をびりびりと揺らす。
今では仲間であるはずのナキ達まで縮み上がっていた。
アキの横にいたリンが声を搾り出す。

「クロ…そんなに怒らなくて良いよ」
「しかし…」
「頭痛いんだ。だからあまり大きな声は…」


それを聞くとクロスメイアスは口惜しげにそのコンビに今だ冷めやらぬ怒気と殺気を込めた目を放り低い唸り声を上げた。

それを好機とばかりにその2頭が退路へと姿を消すのを視認するとリンは力が抜けたように再びその身を地に投げ出した。

「主!」
「「「「リン!!」」」」
「うるせぇ静かにしろ!」
「あんたが1番うるさいよちょっと黙ってな」

うんざりとナキに言い放つとアキはその手の平をじっとりと汗ばむリンの額に手を置く。

「…熱いね」
「夢のせいか?」
「多分ね。でも人間にしちゃこの熱は高いだろう」

焦るアキとクロスメイアスの思考の端々に、ある特定の像が浮かぶ。

双方の視線が互いの目をとらえた瞬間、ちらついていた像は悠々と思考の中心に踊り出ていた。
この手の話に専門的な知識を持つ唯一の者が浮かび上がる。