朝起きると、彼女は昨日と同じように寒そうな格好をしていた。
 それなのに、平気そうに雪の上に立っていた。
 柔らかな日差しの下、彼女は歌を歌っていた。
 明るい、希望の歌だった。
 でもそれが、俺は悲しかった。
 一通り歌い終わった彼女は、ふと俺の方を振り返った。
 俺は思わず、一歩引いてしまった。
 彼女は恥ずかしそうに笑った。
「おほよう。・・・今の、聞いてた?」
俺は、挨拶そこそこに頷いた。
「いつも、歌ってるのか?」
彼女は、頭をかきながら歌った。
 そして、上目遣いで俺を見た。歌、どうだったかと聞いているようだった。
「明るい、いい歌だったな」
俺がそう言うと、彼女はニッコリ微笑んだ。
「ありがとう」
俺に背を向けると彼女は、空を仰ぎ見た。
「何か残すなら、悲しいのは嫌だから」
ふと見えた彼女の顔は、悲しいのに希望に溢れていた。
 何とも言えない感情が、俺の胸に広がった。
 パッと彼女が振り返った。その時はもう、あの顔は一欠片もなかった。
「ねぇ、一緒に歌わない?」
「ああ」
俺は、彼女に言葉に反射的に頷いていた。
 間違いに気づいた時は、もう彼女は明るい笑顔で俺の手を引いていて、手遅れだった。
「ちょっと、待って・・・」
俺は、そこまで言って口をつぐんだ。
 このまま、彼女の願いを叶えよう。
 俺には、それしかできないから。
 できるだけ、彼女に幸せになって欲しい。
 俺はその言葉を、胸に刻んだ。