俺は首に巻いていた青いマフラーをはぎ取り、彼女の首にかけた。
 彼女は、俺の行動の意味が分からないようで、首を少し傾けて俺を見つめる。
「それじゃ、寒いだろ」
俺は彼女から目をそらし、ぶっきらぼうに言う。
 彼女は、首にマフラーを巻き付けてギュッと握る。
「ありがとう。温かいね」
彼女は何故か、泣きそうに言った。
 俺は虚を突かれ、間抜け顔になっただろう。
「別に。・・・じゃあな。」
俺はバイクのエンジンをかける。
 すると、彼女はハッとしたように言った。
「待って」
俺はかまわず走り去ろうとしたが、彼女が俺の手を掴んでいるのに気づいて、エンジンを止めた。
「どうした」
俺が顔を向けると、彼女はうつむき頬を赤くしていた。
「今日は、私の家に泊まらない?次の町まで距離あるから、今からじゃ無理だよ。それに・・・」
彼女は、もっとうつむき頬を赤く染めた。
 いくらか口をパクパクと開閉させてから、もごもごと言った。
「久しぶりの、お客様だから」
俺は、彼女の少女らしい愛らしさに口元がゆるんだ。
 そんな俺の行動が気に障ったのが、頬をふくらませた。
「そんなにおかしいなら、今から出発して、野宿して凍えればいいわ」
俺は今度こそ、声を出して笑った。すると、彼女の顔はさっきの赤とは違う赤に染まった。
「いや、それはごめんだな。ありがたく泊めさせてもらう」
それを聞くと、彼女の顔はパッと明るくなる。
 そしてハッと口を押さえると、プイッと俺に背を向けてツンと歩き出しだ。
 俺もバイクから降りて、その後を追う。
 俺に冷たくしているつもりらしいが、歩き方がうきうきしていて嬉しがっていることがわかる。
 俺は、彼女にばれないように微笑んだ。
 雪の上にできた2人の足跡は、ぽっつり立っている小屋に向かっていた。