「佐和ちゃん?」

不意に背後から声をかけられ、わたしは泣き顔のまま振り返った。

薄い鞄を脇に挟み、両手をポケットにいれた時田君が少し離れた場所でわたしを見下ろしていた。

「また、泣いてる」

ふっと息をはくと、彼はわたしと目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。

「どうしたの?」

人懐っこい笑顔を浮かべ、首を傾げる。

「……なんでもないの」

わたしは泣き顔を隠したくて、立ち上がり背中を向けた。

「ね、佐和ちゃん。今日一緒に帰ろっか」

時田くんはのびをするように両手を上げて、身体を持ち上げると下駄箱から靴を取り出した。

カツンと音を立てて、セメントの床に落とす。

「気分転換に遊んで帰ろうよ。ね?」