一樹は必死に何かを訴えていたけれど、

その言葉は私の耳に、ほとんど届いていなかった。

心は暗く沈んでいて、何にも反応できず。

ただ死ぬ方法だけを思い巡らせていて。

だから

いきなりキスされた瞬間

何が起こったのか理解出来ず突き飛ばした。

「……どうして?私達、姉弟なのよ?……こんなの変、よ」

首を振る私を、一樹は真っすぐに見た。

「真由が好きだよ」

純粋で汚れのない、あの頃のままの瞳。

でも

その言葉に含まれる意味は形を変えていて。

彼はもうただ、抱きしめ合うだけで満たされていた子供ではなくなっていた。

なぜあの日、

私は本気で抵抗しなかったのだろう?

嫌だと訴えながら

なぜ、突き放せなかったのだろう?

私達は

血の繋がった姉弟で。

それは

決して侵してはならない

罪の行為だったのに――。