時田の家を出て、母と二人で暮らし始めたマンションは広さばかりが取り柄のなにもない空間だった。

父と離婚し母の虐待は影を潜めていった。

そのかわり、男の家に入り浸り、ほとんど帰ってくることもなくなった。

一人の部屋で、私は改めて一樹の温もりを思い出し、涙を流した。

でもいつの間にか、それも忘れ、心を閉じていった。

母が私を完全に捨て、部屋を出ていった時、

私は初めて自分を傷つけた。

死のうと思っていた。

私に残されたものはなにもなく、

生きることの意味すらわからなくなったから。

でも

一思いに頸動脈を切ってしまう勇気は私にはなくて。

何度も何度も浅く皮膚を切り付けた。

何時になったら死ねるのか

沸き上がる血を見つめながら、絶望的な気分で考えていた時、

「なにやってんだよっ」

一樹の声がした。