手持無沙汰な私は、部屋をぐるぐる見渡していた。
すると資料らしいものに目を落としたまま、彼女は喋り出した。
「あなたの仕事はね、ここに来る、私の後にこの椅子に座る人のアシスタントよ。」
「あ、はい。それまでは何を?」
「私について仕事を覚えてもらうわ。」
「分かりました。」
「まぁ、アシスタントといっても上司によってさせられる仕事は違うわ。
ここがどんな仕事をしてるか、だいたいを覚えなさい?」
「はい。」
「私は加藤エリザス洋子よ。みんな私のことはエリス部長と呼ぶわ。」
「エリス部長はずっとこのファッション誌部門に?」
「えぇ。この椅子にたどりつくまで20年、座ってから15年、
必死に頑張ってきたつもりよ?
だけど、若いハンサムな社長の親戚の小僧にこの椅子をとられるなんてね。」
「それが私の?」
「そう、あなたの上司。あなた、どこから来たの?」
「通販の「なるほどね。」
「え?」
「流行には興味ない?そのスーツ、一昨年に流行った型だわ。
その調子だと、持ってきたこの資料の意味も分かってなさそうね。」
「すみません。でもこれ気にいってて」
「ここは、最先端を生み出す部屋よ。服を大事にするのは良いことよ?
でも、大事にすることと、いつまでもダラダラ古びた服を着続けることは
違うことよ?分かる?」
「は、はい・・・。」
「あなたの上司でいるのは1週間だけど、甘く見るつもりはないわ。
精進なさい。あなたの新しい上司に恥じぬよう。」
「が、頑張ります。」
「あなたのデスクはこの部屋を出た右側。
とりあえず、電話取りと資料まとめからやりなさい。
要件は以上よ?」
「し、失礼しました!」
私はそそくさとその部屋を出て自分のデスクについた。
きっと顔は耳まで真っ赤だっただろう。