会社を出るとまだ日が昇っていて、こんなに早く帰れるのはいつぶりだろうと思う。
部屋に帰りつくころには、きっと傾くだろうけれど。
カツ、カツ、カツ
ハイヒールを鳴らしながら歩く。
昔、この音に憧れたっけな。
小さい頃、隣に住んでたお姉さんはいつも綺麗なハイヒールを履いてた。
そして、カッコいい男の人が遊びに来るの。
小学校に上がる前くらいだったかな。
お姉さんは結婚するって、そういっていなくなった。
きっと今の私より少し年上、由利さんぐらいだっただろう。
ふと、顔を上げると、ショーウィンドウに飾られた女性用スーツが目に付いた。
マネキンが着てるといつだってカッコよく見えるものね。
新しい上司が来るなら、新しいスーツ、買おうかな。
フォーマルなアウターにスカートも良いかも。
また、馬鹿にされたら嫌だし。
私は目に付いたお店に入ることにした。
「あの、表に飾ってあるのと同じの試着できますか?」