「いつまで、そこに立っている気?」



いつまでも動かない私にしびれを切らしたのか、エリス部長が口を開いた。



「す、すみません・・・。」

「ここにはあなたの銅像はいらない。マネキンなら有能なプラスチックが沢山あるわ。」

「すみませ・・あっ!さっき由利さんがここに来「さっき会ったわ。」

「あ、そうですか。」

「彼女、仕事ができるわ。」

「はい。だろうと思います。」

「それに比べ、あなた。

 感情に流されて、仕事が手に着かないのを恋のせいにする気?

 そんな恋なら辞めなさい。

 恋はあなたを感情的にするけれど、

 食べ物や洋服を与えてはくれないわ。」

「でも、恋は、やる気とか、そんなのもくれると思います。」

「・・・あなたの口から言えたことかしら?

 あなた何か勘違いをしてるのじゃない?

 さっきの彼、あなたの愛する人でしょう?

 あぁ、でも、彼にとってはそうではないみたいだったけれど。」

「何故それを?」

「それくらい見ればわかるわ。」


そう言ってエリス部長は目配せした。


「あなたも私と同じ、あなたは利用されたのでしょう?

 でも私と違って、あなたが送り込まれたのは相手の重要な取引の人の傍。

 何でもできるわ。あなたは若いし。

 言ってること分かるかしら?」

「色気で、仕返しをしろってことですか?」

「まぁ、あなたのセンスでそれが成り得るかは、分からないけれど。」

「はぁ・・・。」

「ひとつだけ、言えるのは、あの男は、あなたの未来に興味がないってこと。

 要件が終わったら、きっと、どこか、そうね、私のように捨てられるわ。」

「エリス部長は、捨てられてなんかいません!手芸部門も立派なお仕事ですよ!」

「ふふ。小娘のくせに私に説教する気?

 そんなこと分かっているわ。私が一番嫌いなことは仕事をおろそかにすること。

 そうね、あなたの今の仕事は、この資料を全部ファックスすることよ。番号はこれ。

 それが終わったら、デスクの整理でもして、今日はもう私は帰るわ。」

「かしこまりました。」