画面に夢中になってると、不意にあなたがやってきた。

嘘。

前の部門に居る時はそんなこと絶対なかった。

私のデスクに近寄りもせず、呼び出してばっかりだったのに。

心なしか、口元が緩んだ気がした。



「エリス部長、居るか?」

「只今、留守にしていらっしゃいます。」

「ほぉー、アシスタントぶりがもう板についたのか?」

「からかわないでください!」

「じゃぁ、少し待つかな。茶、淹れてくれるか?」

「分かりました。」









私は給湯室に行ってお湯を沸かした。

近藤部長、私の愛する人。

通販カタログ部門の部長で、若いのにやり手と評判のあなた。

付き合いだしたのは1年前。

会社では厳しく私を叱るくせに、外に出るとすごく紳士で、

そんなギャップに私はハマってしまった。


でも知ってるの。

フィアンセがいるってこと。

あなたのデスクの右の一番上の鍵付きの引き出し。

その中に紺色の箱があって、婚約指輪が入ってる。

会社や、私の前では決して付けない。

私が気付いてないとでも思った?





ピーピーピー





私はお茶を淹れ、あなた、今は近藤部長に持っていく。





「どうぞ。」

「お、サンキュ。」

「いえ。」

「んー、やっぱり佳枝理が淹れる茶が一番うまい!

 たまには通販部門に来て茶淹れてくれよな。」

「調子良いこと言って。」

「本音だ。佳枝理、座れ。」


部長の横に立っていた私は、部長の横に座らされた。



「今回の異動、俺がお前をここにやった。」

「どうして、私近藤さんのことがっ!」

「分かってる。今度、ここに来る男だが、社長の親戚でな。」

「知ってます。」

「簡単にいえば、これがうまくいけば、俺は出世できる。経営役員になれるかもしれないんだ。」

「え?」

「だから、佳枝理に協力してほしい。」



放心状態になる私をよそに、あなたは私の手を強く握り何度も頼んできた。

出世する手伝いをしてほしいと。