「あ、あの俺っ」


その子は何も言わず近くに置いてあるピアノを指差した。



「そっか。さっきのは歌じゃなくて、ピアノの音か」

小さくうなずく。


「俺、耳わるいからっ!!ご、ごめんな」

「でも、ほんとに歌ってるみたいに綺麗だったよ」








そう俺が言うと、暗闇とホコリでよく分からなかったけど、確かにその子はニッコリ微笑んでいて




その笑顔に見とれて、いつの間にかその子が居なくなったことに気付かなかった。









楽器と楽譜に埋もれたその部屋が、何だかいつもと違ってみえたんだ。