父様と智恵さんはひとしきり話した後、夜の街へ向かう。


あたしは、当たり前の様に愁哉さんに抱きかかえられていた。



「翻訳の仕事、なんて初めて聞きましたが」


愁哉さんのレンズ越しの瞳が射抜く様で、だけどあたしは視線を逸らさない。


「初めて言いましたもの。…私も、あの方には初めてお会いしましたわ。」


「智恵さんですか」


「そう、またあなたは知ってらっしゃるんでしょうね。あたしはいつも何も知らない。何も知らない『お嬢様』」


一度飛び出した言葉は自嘲する様にそれでいて責める様に溢れる。


「琴音さん…?」


愁哉さんの驚いた顔にあたしはその手を振り解いた。


このままじゃいつまでたってもあたしは子供だわ。