「芹沢君、琴音とはいつ結婚するつもりかね?」
父様の低い声に体に緊張が走る。
「琴音も大学は卒業したし、留学の期間も終わった。結婚はどうするつもりだ」
二度目のそのフレーズに頭が痛い。
「お嬢様さえよろしければ、僕はいつでもかまいません。」
愁哉さんはやんわりとそれを受け止める。
あたしは息を呑んで、出かかった言葉を引っ込めない様に吐き出す。
「…父様、私、翻訳の仕事を考えています」
今ほどはっきりと父に意思表示をした事はない。
イギリスに留学したのもそのため。
なのに日本に帰ってきても、就職活動さえしていないのは、『結婚』それがあたしにとってもキーワード。