「午後からどうしても抜けられませんが、ランチは一緒にどうですか」

愁哉さんはそう言って微笑んだ。


だけどどうしても申し訳なくて

「会えただけで良いのです。帰りますわ」


慌てて、席を立つ。元々動作が鈍いせいかスッとは立ち上がれなかったけど。


「欲のない人ですね」


愁哉さんはおかしそうにあたしを眺めて


「お嬢様、それでは下まで送りましょうか」


その手を柔らかく掴んだ。


「…そうですわね。欲、言わせて頂いていいかしら?」


「…なんでしょう?」


「先程の様に、琴音と呼んで欲しいですわ」


あたしの言葉に、愁哉さんはまた驚いた様に見つめてから


「改めさせて頂きます」

と淡々と言った。