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日本に戻ってきて緩やかに時間は流れる。愁哉さんは毎日必ず顔を見せてくれたし、忙しくて来れない時は電話をくれた。


律儀で真面目な人。


冷たい瞳の奥に本当は優しさを含んでいる事は知っているの。だから、離れられない。


何だか、無性に会いたくなって、平日の昼間。あたしは連絡もいれずに会社を訪れた。


この間大きな取引を成功させた彼は異例の早さでまた昇進したと聞いたし、多分、あたしが思うよりずっと忙しいだろうから、顔を見るだけでいい。そう思って。


愁哉さんは今会社を出ているらしくてあたしは広いロビーに腰を下ろす。

好奇の視線を向ける社員。彼らの瞳に『私』がどう映っているのかは知らない。


社長の娘。


愁哉さんの婚約者。


世間知らず。


箱入り娘。



次々に飛び交うフレーズに息が詰まった。