あたしが乗ったのを確信すると、
ゆっくり漕ぎ出した譲輝くん。
上手に人を避けながらも、
自分でこぐより明らかに加速していく自転車。
あたしとは違う脚力も
あたしを引っ張った力強い腕も。
しっかり“男の子”を感じる。
「・・・・・・ねぇ」
「ん?」
「何も、聞かないの?」
譲輝くんの背中に語りかける。
あの場所にいた譲輝くんに、
あたしとお兄ちゃんの会話が聞こえない訳がない。
「聞いてもいいの?」
譲輝くんの言葉を聞いて、
誰にも内緒にしてたことを打ち明けた。
時々泣きそうになって、
何回も言葉が詰まった。
だけど、譲輝くんは
黙って最後まで聞いてくれた。
「形だけの綺麗ごとなんて、
きっと誰も聞いてくれない。
何も、届かないんだよ・・・・・・・」