「何もない?」

ううっ、疑ってるよ〜。

「ぶつかっちゃって、書類を拾うの手伝って、ちょっと話をしてただけなの。

本当に、ね?」

「そう、ならいいや」

まだ疑われているような気がするのは、あたしの気のせいだと思いたい…。

「それよりも課長、プレゼンに遅れますよ」

「ああ、そうだね。

じゃ、急ぐよ」

そう言った瞬間、淳平に腕を引っ張られた。

「えっ?」

「今夜、ディナーなんてどう?」

淳平に耳元でささやかれた。

ディナーって、どこの金持ちの口説き文句ですか?

そうツッコミながら、あたしは淳平を見あげると、返事をする代わりに首を縦に振ってうなずいた。

淳平は満足そうに笑顔を見せた。

もちろん、ブラックオーラなしの笑顔である。

「じゃ、行ってくるね」

淳平は手を振ると、あたしの前を去った。