ピンポーン。
玄関のベルが鳴る。

お父さんは会社に。
お母さんは買い物に出かけていた。

小六の夏休みの始まりの日。
あたしは家で独り、留守番をしていた。

あれからハヤトのことは気にしつつも。
学校でも。
家の近くでも、あまり顔を会わせなくなっていた。

ふいに顔を会わせたときには、なにを言っていいのか分からずに、ついつい顔を背けて、気がついてない振りをしていた。

「はーい。」
そう返事をしてから。
玄関に出て、ドアの鍵を開けると。
そこに立っていたのは、ハヤトだった。

「よっ！久しぶり。」
あたしの顔を見るなり、ハヤトは片手を上げて、そんな言葉を投げかけた。
あたしは多分、かなりうろたえていたと思う。
そんな様子がハヤトには面白かったのか、楽しそうに微笑んで。
「オレさ、今度児童擁護施設に行くことになったんだ。父さんが、さ、お酒の飲みすぎて、身体を悪くしちゃってさ。」

ハヤトが、養護施設に預けられる。
その言葉を聞いたとき、あたしは正直ホッとしていた。
なんとなく気まずいふたりの関係から、解放されると思ったからだ。