回覧板をハヤトの家の玄関の中に落としたまま。
ハヤトはあたしの手を引っ張って、公園まで走った。

その後ろ姿は、なんだかとても一生懸命で。

きっと見られたくないものを見られてしまったことを、悲しんでいるかのようなそんな感じがした。

公園についても、なんとなく気まずくて。
それでもあたし達は無言で、ブランコにふたり、腰を下ろした。

ブランコを揺らしながら、ふいにハヤトが呟いた。
「父さん、母さんを探し回ってたから、会社にもあまり行かなくなってさ。それで会社から辞めるように言われちゃって。」

ハヤトのお父さんは、どこにでもいる感じの普通の優しいおじさんだったのに。
愛する人がいなくなったことで。
自分が裏切られたことで、色々と自暴自棄になって。
お酒の力を借りて。
忘れられないことを、無理やり忘れようとしている。
ハヤトにはそれが、とてもたまらなかったんだろう。

ハヤトの痛いほどの想いを感じつつも。
あたしはなにも言えなかった。

ハヤトはあたしの顔を一度も見ることなく。
まっすぐ前を向いたまま、強くブランコを漕ぎ出した。

キィーコ、キィーコ。
まるでブランコが泣いてるみたいな、あの音。
あたしはただうつむいて、その音を聞いていた。