小六になってから、あたしはハヤトとあまり会わなくなっていた。
今思うと、そんな自分がとても卑怯に思える。
それでもその頃は、なんとなく会っちゃいけないような、そんな気がしていた。

心無い近所の噂話も。
ときどきハヤトの家から聞こえる、ハヤトのお父さんの怒鳴り声も。
それを助長していたような気がする。

ハヤトのお父さんが、会社をリストラされて、昼間からお酒を飲んでいることを知ったのは、夏休みに入ってからまもないことだった。
回覧板を届けに、久々に行ったハヤトの家の玄関の中で。
ハヤトのお父さんは日本酒の瓶を片手に、奥のリビングルームから出て来た。

足取りもおぼつかなく、あたしを見て懐かしそうな顔を一瞬したのだけど。
あとは自嘲気味に笑いながら、回覧板を受け取ろうと。
その震える手が、なんども空を舞っていた。
あたしはそんなおじさんが怖くて、動こうにも動けず、硬直してしまっていた。

ハヤトが二階の自分の部屋から急いで降りて来て、あたしの手を引っ張って、家の外に連れ出すまでは。
あたしはただただジッと、そんなおじさんを見つめていた。