リアルなグラフィック。
荘厳な音楽。
朝が来て。
昼が来て。
夜が来て。
太陽があって。
月があって。
星があって。
街にはたくさんのキャラクターたちが歩いている。

ノンプレイキャラクターと呼ばれる特定のキャラクター以外は、全部その向こう側に、あたしと同じ生身の人間がいる世界。
擬似世界だけど、その世界は確かに生きている。

不思議な感覚とともに、あたしはその世界をのぞき込んでいた。

たくさんの言葉たちが、チャット欄に溢れ始める。

勇者おっくん:ハヤテ久しぶり~。いつもいるはずのハヤテがいねぇ~んだもん!別ゲーに行ったのかと思った~。

サラ:ハヤテく~ん。今から一緒に、暗闇の洞窟へ狩に行かない?

わさび和尚:こんちゃ~!このまえ手伝ってもらったクエスト、あれからなんとか達成したよ~。

エルキュリア:こんwこのまえはアリガトw

月葉:こんにちは~^^

リリス:ハヤテが来た!ハヤテが来たよ!!

ともき:ハヤテさん、借りていた武器と防具返します。どこにいますか?

猫男:ハヤテぇ~クエスト手伝ってぇ~><

どの言葉も。
ハヤトの居場所がここにあったことを、証明しているようなそんな気がした。

何十時間も。
ハヤトはこの世界の中で。
リアルでは満たされないなにかを、ハヤテというもうひとりの自分を作ることによって、得ていたのかもしれない。

あたしはキーボードから慎重に言葉を選ぶと。

ハヤテ:ごめん。しばらく用事で来れないんだ。

それだけ入力すると、この世界を後にした。