それでも不思議と。
涙を流すこともなく、冷静でいられたのは。
どうしてなんだろう。

― ハヤトが死んだ ―

その言葉の意味が、今のあたしにはとても遠くにあるようで。
現実的だとは思えなかったからなのかもしれない。

確かにそこに、もう動くことがない、ハヤトがいたというのに。

両親から、先に家に帰るように言われたあたしは。
葬式場から外に出ようとしていた。

受付には、養護施設の年配の女性職員ふたりが。
ハヤトのことをヒソヒソと話していた。

思わず足がゆっくりになる。

「若いのに、心臓麻痺ですって。学校には行かずに、毎日ネットカフェで何十時間もパソコンをいじっていたそうよ。」
「そういえば、施設にも担任の先生から学校に来ていないって連絡が頻繁にあったものねぇ。」
「施設にも帰って来ないときもあったじゃない?ずっとネットカフェにいたらしいけど、お金とかってどうしてたのかしら?」
「そうよねぇ。なんでも彼を担当していた生活指導の職員がそこのところを聞いてみても、ずっとだんまりで、なんにも言わなかったそうよ。」

自宅に向かって、歩き出すはずのあたしの足は。
なぜだか、ネットカフェ○×に向かって歩き出していた。