屋敷の西側には、ガラス貼りになった小さな温室がある。
温室の真ん中にはティータイムを楽しむためにと置かれた白いソファとガラステーブルが備えられている。
お父様があたしの為にと用意してくれたこの温室で、あたしはいつも午後のティータイムをくつろぎながら過ごす。
温室には真紅の薔薇が栽培され、ガラス越しに光を取り入れ、華々しく咲き誇っている。
「お嬢様、お茶が入りました」
ガラス越しに外を見ていると、薔薇の花びらが一枚だけ浮かべられたティーカップを手渡された。
「いつもありがとう、麗」
そう言うと麗は小さく頭を下げ、「お嬢様の執事ですから」と嬉しそうに答えた。
ティーカップを緩く廻し、紅茶の香りを嗅ぐと、ふんわりと独特のお茶の香りがする。
優しくて、少しだけ苦そうな。
そんな香り。
「ね、麗はどうして執事になろうと思ったの?」
「きっかけ、ですか」
「さぁ…」と呟きながら、あたしの方へと視線を向けると、思わず麗の蒼い瞳を見つめてしまう。
麗の瞳は、反則だと思うほど美しい。
見つめられると逸らせない。