再び訪れた気まずい沈黙に、あたしは所在無げに視線を彷徨わせた。





なんというか、申し訳なさ過ぎて、母親に掛ける言葉も見つからない。
超強力な地雷を落とした耀太も、まいったなぁって顔で頭をポリポリ掻いている。





そんな気まずい思いをするなら、言わなきゃよかったじゃないの。






恨みがましい目で耀太の端正な横顔を睨みつけていると、





「…………楓…」






向こうを向いていた母親から、突然地響きのような低い声がして、あたしはとっさに身構えた。





こりゃいままで以上に、ヤバい雰囲気。






お母さん、まさか片手に包丁なんて握ってないよね………?






ゆっくりとこちらを振り返りながら淡々と話す母親。
さすがに包丁は妄想しすぎたみたいだけど……






「アンタ、今からでも勉強しなさい。
せめてあと2年ぐらいは、どこかの教育機関に引っ掛かっててくれないと、そんな世間知らずのままじゃ、間違いなく堕落した人生を送ることになるわよ」





『世間知らず』『堕落』――――痛烈な猛口撃





あのねぇ、ここまで言われて黙っとける程あたしもバカじゃないっつうの!
文句のひとつでも言い返してやらないと気が……っ!いえっ…!済みますぅ。




母親にギロリと睨まれて、一瞬で戦意喪失させられたあげく、コクコク頷いてるあたし。





この期に及んで『コラ、ババァ!』なんて言えるわけない。
手にこそ握ってはいないけれど、その後ろには、確実にまな板の上で鈍い光を放っているソレがちらちらと……







「それから……」






まだ何か言いかけてる母親の手元の行く末を目で追いながら、ゴクリ…あたしの喉が、小さな音をたてた。






まさにヘビに睨まれたカエル状態。










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