千幸は、あれから本当に碧に告白はしなかったらしい。
そんな状況にホッとしながらも、油断ならないな、なんて思っていた。




文化祭二日前。

二時間のみの授業、大掃除を経て、菜束たちは文化祭準備にかかった。

菜束たちの教室装飾は、敢えて下書きなどはせず、様々な画材を使って一気に教室内に絵を描く。
そんな方法を取ることにした。

斬新なアイデアと思われがちだが、実際は面倒なだけだった。

30分ほどで教室に画用紙を貼りめぐらせる。

「わ…真っ白」

「小玲ー、美術準備室って何処?」

「あ、じゃあ行こ」

「助かります」

真っ白な元教室から足を踏み出して、廊下の靴に履き替える。

美術準備室は三階にあり、今菜束らが居るのは六階だった。

「あれに絵描くのか…って何か緊張」

「判る…あ、ここ。画材?」

「そうそう…」

碧は物珍しそうに辺りを見回した。
菜束は適当な画材を手に取って、この若干臭めな部屋から出た。

「綿貫、閉めちゃうよ」

「うわ、出ます出ます」