夏実は無事だった。




夏実の彼氏は菜束らのことを一切話さなかったらしい。
菜束も碧も、警察に呼ばれたり、お咎めを受けたり、なんてことはなかった。



菜束は今、病院の屋上でしゃがみこんでいた。

夏実は、ただ騙されていたのだという。
菜束と会って、蒸発宣言をしたその直後、騙されていたことを知った。
だから、菜束に小さな助けを求め連絡を取っていたらしい。

──そんな風に割りきれる話じゃない…。

菜束は菜緒子に慰められてしまった。



「菜束は何にも悪く無い。全部お姉ちゃんとお母さんの問題なの」

「でもお母さん私、…」

──嘘を吐いたの。

「───菜束は悪くない。菜束は悪くないよ…」

そう言って病室の扉を閉められてしまった。





ふと顔を上げると、目線の先に碧が居た。

「──…綿貫」

「これ貰ったんだけど、飲む?」

碧は菜束に林檎ジュースを一本差し出した。

「誰に貰ったの?」

何と無く受け取り難くて、菜束が首を傾げると、碧は難しい顔をした。

「病院の、──知り合い?」

「じゃあ綿貫が飲まなきゃ…」

菜束の頬に冷たい缶が当てられた。
碧がしゃがみこむ。