「菜束、ごめん」

「え?」

夏実は下を向いた。

「騙した」







──騙した?

──誰を?





「全然お前より可愛いじゃんかよ!」

ドスッ。
そんな音を立てて夏実の彼氏は夏実の腹を蹴った。

菜束は声が出ない。


「あのね、高校生って色々あんの。好きだから大切にするかっていうとそういうわけでも無くて」

「!」

「こういうのも愛情表現なんだよ」

──止めて。

笑い声なんて、この場に要らない。

──少なくとも、私の姉は危険な目にあっている。


「お姉ちゃんを返して」

夏実の彼氏は目を見開いた。

「な…お前こいつ嫌いなんだろ!?」

「返して!私のたった一人のお姉ちゃんなんだから!」

人生で一番大きな声だったかも知れない。
口に出してからはやっぱり恥ずかしかった。でもそんなことを言える場ではない。

「悪いけど、それは無理だなぁ」



また彼氏は夏実を殴る。

「やめて!」

菜束は夏実と彼氏の間に入って殴られた。

──痛い。

こんなに痛い思いしたのは初めてなのに、お姉ちゃんはずっと…ずっとこんな、

辛い思いを…。