夏実は公立高校。
菜束は私立中学。
そんな格差でさえも、夏実にとって苛立ちの種だった。
「どうせ父親似なんでしょ。人妻を襲うような浮気男の娘なんだから」
そう言って菜束の鞄を蹴りあげた。
人妻。
当時菜束にはその言葉の意味が掴めず、でも“菜束にとって”悪い意味であることは理解出来た。
──だってお姉ちゃんは私のことが嫌いだから。
「君が君を嫌いなのは、
君が君を嫌いだから。
君が君を嫌いになった時、
君も君が嫌いになる。」
いつか会った祖父は亡くなる前に言っていた。
祖母も祖父も、夏実に沢山謝ったという。
夏実が家出をよくした小学生、中学生の時、世話をしたのも祖父母だったらしい。
祖父が亡くなった時、夏実は誰も居ない所でずっと一日中泣いていた。
「優しい子なんだよ。菜束ちゃんのお姉さんは」