「ちょっとー…大変なことになりましたよ菜束姉さーん」
「うん…まぁお姉ちゃんのことだから…ね」
「菜束ー、帰ったの?」
「あ、うん!今帰りました」
母、菜緒子の窺うような声に菜束は答えて、ドアを開けた。
「気付かなくてごめんね。…お腹空いた?」
「うん、晩御飯何?手伝うよ」
「ありがとう」
菜束は、菜緒子はてっきり泣いているものと考えていた。
だから元気そうな菜緒子に戸惑ってしまった。
父親はいつも遅いのだが、夏実の居ない食卓は、何だか寂しいものだった。
「あー…結局塾行けなかったー…」
「今日は授業じゃないんだ?」
「うん、自習しに行こうと思っててさ。──風呂先入る」
「どうぞ」
葉太が出て行ってから、菜束は溜め息を吐いた。