仄暗い廊下の方に視線を飛ばすと、すぐそこの角に静奈が立っていた。


顔を涙でぐしゃぐしゃにしている静奈は、僅かに微笑んでいるようにも見える。


わたしは、浴衣の袖で涙を拭った。


余分な肉が付いていない静奈の両手と、唇が、同時に動いた。


「順也、助かったよ! もう、大丈夫だって」


わたしの身体が、急に軽くなった。


同時に、息をするのも忘れて涙を流した。


涙は熱く、まるで濁流のように、わたしの頬を伝い落ちて行った。


背中を丸めて立ち尽くしていると、健ちゃんがわたしの背中を弾くように叩いた。


「行こう」


生き生きと微笑む健ちゃんに引っ張られて手術室の方へ向かうと、鉄の扉が開き、ストレッチャーが出てきた。


ストレッチャーに、順也の両親と静奈が飛び付いた。