白いしぶきが弾ける、波打ち際のような香りだ。


「真央の涙は、1等賞だんけ」


そう言って、健ちゃんはわははははと、大きな口で笑った。


八重歯は鋭く尖っているのに、とても優しかった。


健ちゃんは、もう一度、わたしを抱きすくめた。


わたしは、順也以外の人の前で、泣いたことがなかった。


お父さんやお母さんの前で泣くと、心配させてしまうかもしれない。


静奈の前では、いつも笑っていたい。


他の人の前で泣くと、困った顔で同情されてしまうのだ。


「真央だって、思いっきり泣きたい時くらい、あるよね」


そう言ってくれる順也は、わたしの気持ちをうんと理解してくれる人だ。


だから、順也の前では素直に泣くことができていた。


でも、わたしは、順也以外の泣き場所を見つけたのだ。


わたしの涙を1等賞にしてくれた人の腕の中は、思いの外、泣きやすかった。


溜めていた涙を、ここぞとばかりに吐き出した。


かなり時間が経った頃、泣いているわたしを離して、健ちゃんが肩を叩いてきた。


わたしが顔を上げると、健ちゃんが「静奈ちゃん」と言って、待合室がある方を指差した。