いつも、面倒くさがらずに、わたしの味方になってくれる。


いつも、わたしが読み取りやすいように唇を動かしてくれる。


たまには、ケンカだってする。


でも、優しい両手で仲直りを持ち掛けてくれるのは、決まって順也だ。


わたしは、目頭を指で強く押した。


深呼吸をする。


涙が出そうだからだ。


人前で弱いところを見せたら、憐れに思われるのがオチだ。


こんな時だっていうのに、それが嫌で仕方ない。


運転している健ちゃんの隣で、込み上げるものを、わたしは必死にこらえていた。


車が、一時停止した。


顔を上げると、赤信号につかまっていた。


健ちゃんが、わたしの肩を叩いた。


「大丈夫だんけ。順也は、そんなにやわじゃねんけな」


わたしは、頷いた。


何度も、何度も、頷いた。


お父さんとお母さん以外の人間で、わたしの耳になろうとしてくれたのは、順也が初めてだった。


小学生の頃、雨降りの登下校は決まって、順也はわたしに歌ってくれたのだ。