「ありがとうな。助かる」


そう言って、健ちゃんは警察官にわたしのスマホの画面を見せて、何かを話していた。


夜の歩道に、静奈の下駄が乱暴に散乱していた。


しばらくしてから、健ちゃんがわたしのところへ戻ってきた。


警察に、事故の状況等を説明していたらしい。


「おれたちも、行こう」


健ちゃんが言った。


「順也のとこに行こう」


わたしは、静奈の下駄を拾って、健ちゃんの車に乗った。


革のシートはふかふかでやわらかいのに、身体の震えをわたしは止めることができなかった。


順也。


小春日和のような、穏やかでやわらかい人だ。


大きな目をしているのに、笑うと細くなる。


優しくて、正義感があって、わたしの大切な幼馴染みだ。


小さい頃、わたしのために、友達と遊ぶ時間を割いて一緒に教室に通い、手話を覚えてくれた。


近所の悪ガキたちにいじめられていると、すっとんで来て退治してくれた。


順也は、わたしの、スーパーヒーローだ。