まだ若く、20代後半のように見える。


泣き狂っている静奈の細い肩を抱いて、健ちゃんがスマホで話をしているようだ。


蒸し暑くて、立っているだけでも汗ばんでしまうような熱帯夜だ。


それなのに、わたしは寒くてたまらなかった。


指先が凍ったようにつめたい。


汗は1粒たりとも出てこない。


背筋がつららのように凍りついていた。


呆然と立ち尽くすわたしの肩を叩いたのは、亘さんだった。


「今、健ちゃんが救急車よんだから。大丈夫」


わたしは、亘さんの手を払いのけて、その時、ようやく事態を把握した。


わたしは、ヘッドライトに向かって走った。


頭から大量の血を流していたのは、順也だった。


形の良い唇が、不気味な色をしている。


わたしは、順也の手を握った。


温かい。


でも、順也が手を握り返してくれることはなかった。


人は本当にショックを受けると、我を忘れてしまうのだ。


わたしの方こそ、意識を失っていたのかもしれない。


静奈が、髪の毛を振り乱して何かを必死に叫んでいる。


しばらくするとパトカーがやって来て、間も無く、救急車も到着した。