なぜ、健ちゃんがそんな事をしたのか、わたしには分からなかった。


健ちゃんには、わたしに、絶対に聴かせたくない音があったのだ。


そんな事をしなくても、わたしの耳は聴こえないから大丈夫なのに。


突然、健ちゃんがわたしを置いて駆け出した。


向こうを見ると騒然とした、でも、漠然ともした雰囲気が立ち込めていた。


わたしの身体が恐怖に震え、膝は笑っていた。


眩しい。


白く濁った、でも、強い黄色の明かりが、夜の車道を明明と照らしている。


わたしは笑う膝を押さえて立ち上がり、左右によろめきながら歩いた。


頭の中は、ほとんど真っ白だった。


車道の真ん中に斜めになって、道を遮るように大型トラックが停まっている。


ヘッドライトに、小さな虫たちが集まり始めていた。


健ちゃんがその光の中に飛び込んで行くのが見えた。


よろよろ歩いていたわたしに駆けて来たのは、青ざめた顔の汐莉さんだった。


わたしは、汐莉さんの唇を凝視した。



「順也くんが、はねられた」