わたしと健ちゃんの横を、自転車が2台通り過ぎて行った。


あったかい。


わたしの頬が、健ちゃんの胸元にぴったりくっついていた。


健ちゃんからは、とてもいい香りがした。


何かの香水だ。


甘ったるくなくて、爽やかな波打ち際のような、清らかな香りだ。


健ちゃんの胸に寄り掛かりながら、わたしは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


少し、悔しかった。


結局、誰かに助けてもらわないと、わたしはまともに夜道を歩く事すらできないのだ。


前から迫る危険は分かっても、後ろから迫って来る危険には気付く事ができない。


でも、そんなやくたたたずのわたしに、健ちゃんは言った。


「知ってる? 自転車ってな、本当は車道を走るものだんけ。だから、真央は悪くねんけな」


真央は悪くねんけな。


まるで、耳が聴こえない事は別に悪い事じゃないんだよ、と言ってもらえたような気がした。


健ちゃんが、わたしの背中を思いっきり叩いた。