そんな相沢さんから、なぜか家電に電話がかかってきた。
(これは期待してもいいのか…?)
俺は生唾をごくりと飲み込む。
「あの…もしもし?」
不安げな声がして、一気に現実に引き戻される。
おれは、バクバクと打つ心臓をそのままに、あの!と切り出した。
「もしかして…相沢さん、だよね?」
「……ぷっ」
沈黙の後、そんな破裂音がしたかと思うと、次の瞬間に電話の先から大笑いが聞こえた。
俺は意味が分からず硬直する。
(…え、な、なに?)
冷や汗を額からたらしながら、俺は必死に考えた。
しかし、そんなことは無駄だった。次の瞬間、俺は後悔することになる。
「お前、まじで馬鹿なん?あー、腹よじれたぁ」
俺の胃に、どすんと重たい石が落ちた。
女にしては、少し低めのハスキーボイス。鼻にかかるような笑い方。
そうだ、俺はこいつを知っている。何故ならほぼ毎日顔を合わせるし、ことあるごとにつるんでいるから。
多分俺は、誰よりもこいつをよく知っている。そしてこいつも、俺のことを誰より知っている。
…多分。
「ヤエ、てめぇ」
俺が呟くと、ヤエはケタケタと軽い笑い声を上げた。