入学式…

あたしが1番、 苦手なこと。

ドクン…ドクン…ドクン

「矢嶋 愁です。」
心臓の音がうるさすぎて、 自己紹介の声が耳に入らない。
うー…、 やっぱり自己紹介って苦手だあ…。 みんなの視線があたしに向けられるんだよ…? 震える手足にじんわり滲む汗…春ってこんなに汗かいたっけ…? 机の上に乗せた、 自分の握りこぶしを見つめながら、 そんな事を考える。
「次ー…お、 女子だな。 …相原ー。 」

き、 来たっ…!!

「はいっ…」
思い切り立ち上がったあたしに、 くすくすと笑い声が飛び交う。 あれ…何でみんな、 笑ってるの…?
「あ…、 えと…」
そんな雰囲気でなんだか言いづらく、 吃ったあたしが可笑しかったのかみんなはまたくすくすと笑い出す。

どうしよう…、 どうしよう…
「おーい…相原ー?」
やばい…、 目眩がして来た…
どうしよう…、 どうしよう…
お腹も痛くなって来た…。
どうし…ーーーーー

カタッ…

「…はーい! 俺の好きな食べ物はチョコだから、 女の子バレンタインよろしくー! 」

途端、 クラス内からは笑いが巻き起こる
「おーい綾瀬。 お前はもう終わったろーが、 ほらさっさと座れ」
へいへーい、 とたるそうに呟きながら座る隣の席の彼…、 男子出席番号一番…綾瀬楓。 髪は目立つ茶色で、 ピアスにペンダント…。 不覚にも時間が止まったように、 目を奪われてしまったんだ。

彼が座り、 クラスは静かになった。
「あ、…相原…恋です。 」
そう言って静かに座る。
やっと終わった……
安心したからか、 毛穴から汗が溢れ出た気がした。
…そういえば…綾瀬楓…。 なんであんな途中に…? あたしは考えながら、綾瀬楓を見つめた。 もしかして…、 なんて考えていると、 見つめてるあたしに気付いたのか、 綾瀬楓と目が合った。 慌てて目を反らしたあたしを見ると、 小さく笑いまた教壇に向き直る。

…綾瀬、楓……
一目惚れかは分からないけど…、 この時から君は気になる存在になっていた。