フロアに出てすぐ。人目につき難い、隅のテーブルに件の人物は居た。
視界の端で、叶は自慢の金髪をふるふると揺するが、この際は無視を決め込んだ。
(後で何言われるか、わからんね…)
少し悪寒を感じつつも、歩みを進める。
「すみません、オーナー。そないな格好ですと、お客様が不審に思われますよ?」
「あ、バレてた? いやぁ、叶君は目の前通っても気づいてないから、このまま行けるかなぁって思ってたんだけど」
(バレてない思うてたんかぃ……)
この飄々とし、人の悪そうな笑みを浮かべたままの、痩せた中年男がオーナーの西原 慎治 (ニシハラ シンジ)だ。
「はっきり言いますけど、チーフにもガッツリ、バレてはりましたよ…?」
「あれ、もともとダメだったんじゃない。早く言ってよぉ、叶君も人が悪いんだから」
単に関わりたくなかったのだろうという推測を、純一は出さずに飲み込んだ。
「ともかく、今は晴人君不在なんで、お引き取りください」
(どうせサボって来たんやろうしな……)
「ところで、晴人居ないって? オープン初日に?」
マイペースに話しを進めるのがこの男、西原 慎治クオリティー。
「昨日、張り切っとったみたいで、ちと熱出したみたいですわ」
「そっか…。彼、楽しい事は人一倍、頑張っちゃう性格だからねぇ」
「今朝、叶ちゃんがごっつ怒って、今は反省して控えてますよ」
「叶ちゃん、怒ると恐いからねぇ…。それじゃ、僕も怒られる前に帰るとするよ」
そう言い、注文のケーキとストレートティーを平らげ、席を立つ。
(ホンマ、何しに来よってん…)