「ちょっと、ちょっと。ジュン太、ジュン太」

もちろん、例の怪しい男については、フロアスタッフ達にとっては、最初の難関になりつつあった。

店長の居ない今、如何に迅速に、かつ無難に対処するべく、緊張状態を解けないでいる。

叶と純一を除いては……。


「なんやねんな」

「あのお客様、どう思う?」

「どないて、あら……」

純一は途中で言葉を濁した。それは言い難い事ではあるが、僅かに躊躇いも含んでいる。


「ねね、ぱぱっと対応して来てくんない?」

「ん~、叶ちゃんはわかっとって見事にスルーしとるけど、確かに他の子は仕事にならへんね…。しゃーない、行くわ」


「さっすが、みんなの兄貴!頼んだよ」


純一は香織にキッチン用のエプロンを手渡し、変わりにやっとけというジェスチャーをし、フロアへ入る。


「なんで私に来ないのよぉ……」

もう一人のキッチンスタッフ、裕美は隅へ行き、生クリームを寂しげにかき混ぜていた。