(……学生アルバイト3人か。全員女の子か…。男の子はやっぱり来にくいのかな)
両手にはアルバイトの募集チラシと、面接アポの簡易メモ。
おでこには叶に無理やりつけられた、冷え○タ。
店長室もやっぱりレトロ感漂うもので、壁掛け用の振り子時計に年期のある机、それとアンティークものに似せた電話がある程度だ。
もちろん、壁や床、備品に至るまで、限りなくアンティーク風に作ったのはこの男、神崎 晴人 (カンザキ ハルト)の完全な趣味だ。
ファミーユという喫茶店はもともと、フランスをイメージして店構えや商品を作られていたのだが、店を増やすに当たり、本店の店長、いわばオーナーの意向により、その支店を任された者に内装や商品を任せている為、ファミーユという看板こそ同じだが、それぞれが独自の店として発展している。
(だからって、2号店のメイド喫茶はなぁ……)
そう思い出し苦笑いを浮かべ、椅子に身体を預ける。
目を閉じ身体を休めつつ、物思いに耽っていた時だ。
ドアノブが僅かに回され、誰かが入ってきたようだ。
確認の為、目を開けようとしたが……。
「冷たぁっ!んだこれ」
完全に目が冴えた。
「何って、ハチミチ入りのアイスレモンティー。あまり甘くしていないから」
「おぉ、サンキュ。気ぃ使わせてわりぃな」
甘いのがちょっと苦手な晴人にとっては、叶のささやかな気づかいは嬉しいものだった。
「無理して仕事来るくらいなら休みなさいよ、長引くし悪化したらどうするの」
「すまん……」
「だったら大人しく寝てるなり、無理しないこと」
「あぁ」
叶はそれだけ言うと踵を返し、部屋を後にした。
「……うまくなったじゃねぇの」
長い付き合いの友人の成長を、密かにかみ締める、晴人だった。