「だからあれは、忘れるからぁ」


「うるさい! 乙女の純情をよくも~!」


「いや、あれは俺ではどうしようも……」

「うるさい!」


取り付く島もねぇな……。

ただ起き抜けに“ちょっと”甘えられただけなんだけどな。


「あぁ~、もう最悪!」

久しぶりに錯乱状態の叶。こんなのは高校の時以来だ。いや、大学でも似たような事があったか…。


「……ねぇ、大学でも同じような事してたよね」

いつの間にか冷静さを取り戻し、上を見ながら口を開いた。

偶然にも同じことを考えていたようだ。


「あぁ、あん時も寝ぼけてたな。飲み慣れてない酒を飲んで酔っ払ったあげく――」
「酔ってない! ただちょっと眠くなっただけで……」


言葉を遮る程“自分が酔った”という事実が気に入らない様だ。

負けず嫌いというか、なんというか……。


「もう知らない!」

「あ、おぃ待てよ!」

クスクス笑っていたのが気に入らなかったらしい。急に歩くスピードを上げた叶。

というか、この時間に一人歩きは危険……って速っ!