シンファがいなくなってから、部屋は異様な沈黙に支配されていた。かろうじてカロンに席を勧めてから一向に動く気配のない二人。居たたまれないカロンは落ち着きなく視線を動かしていた






「カロン君、だっけか?」

咄嗟のことに反応出来ず、変な間を挟んで頷き返した。その様子に武人は特に気にした風もなく軽い調子で、けれど真剣な表情で言った

「“鬼憑き”とか“鬼”って、わかる?」

「聞いたことはありますけど・・」

「・・じゃ、今日はとりあえずそれだな」

武人はしぶしぶといった様子で説明を始めた












「元々どこで生まれたかはわかってねぇけど、一番古い記録は日本の小さな村に伝わってた伝承だったらしい。普通とは違う様相で産まれてきた子供は鬼や悪霊がとりついてる。だから鬼憑きって呼んでたんだと」

「人間じゃ、ないんですか・・?」

「見た目はほとんど変わらないんだけどさ、特殊能力的なものがあんだよ。触れただけで物が崩れるとか、未来がわかるとか、色々」

「人間では考えられない治癒力、能力を使うときに現れる呪印、異色の瞳、発達した身体能力は差こそあれ鬼憑き共通のものだ。血液が毒なのもな」

「で、これを鬼って呼んだりもする。言いやすいからな」

カロンはキョトンとしている。話は聞いているのだろうが、頭が付いてきてないように見える

「俺等は今、その鬼と戦ってんだ」

武人が軽く言った台詞に、数コマ遅れてカロンが反応した。わからないと顔に書いてある

「どうしてですか?」

「ほっとくとこっちが殺られるんだよ」

苦笑混じりに言う武人

「・・鬼憑きにはな、殺人欲と呼ばれてるものがある」

静かに言う秀樹。つまりはそう言うことだと、二人の顔が物語っていた



「ここは、人間が生きていくための最後の砦なんだよ」

そう言い放った武人は、どこか悲しそうに笑っていた