「あの・・・えーっと・・・何から話せばいいんだろう・・・」
少し困ったように首の後ろをさわる。
「さっき、学校に来い。って言ったよね?」
「ああ。」
「私もね、行けたら行きたいの・・・」
はぁ?と言った顔を浮かべる翔。
「だったら来ればいいじゃねえか。今日会った感じじゃ友達なんだろ あいつら。だったらいじめとかの心配もないだろうし。来たいなら来いよ!」
「簡単に言わないで!!」
涙目になりながら叫ぶ。
「簡単に言わないでょ・・・」
語尾が聞き取れないくらいに小さい声で再度呟いた。
「簡単に。って簡単だろっ。来たかったら来る。何が難しいんだよ!」
わからないと言う表情をする。
「私ね・・・病気なの」
「えっ・・・」
2人っきりの部屋に沈黙が数十秒程流れた。
先に沈黙を破ったのは詩保の方だった。
「病名言ってもわからないと思うから簡単に言うと、心臓が生まれつき悪くて、人と長い間接することが出来ないの。体力が人より少なくて・・・。
人と話しても体力って使うでしょ。学校って6時間じゃない。私は今最大で4時間なの。休憩なしで人と居れるの・・・。
それに歩いたりとか授業とかでもっとたくさんの体力がいるの・・・。
私にはそれに耐えることが出来ないの・・・。
ごめん。自分から話しといてなんだけど、今日は帰ってくれない?
せっかく来てくれたのにごめんなさい。
ちょっと疲れちゃった。
お願いだから帰って・・・。」
「・・・わかった」
ガタッと椅子から立ち上がった音がした。
「リビングに蛍斗達がいると思うから、少し疲れて休むから今日は帰ってくれる?って伝えといてくれない?」
「わかった。伝えとく」
ふとんの中にもぐった詩保の耳にバタンと扉の閉まる音が聞えた。
詩保の部屋を出て階段を下りていくとバタンと大きな音とともにリビングの扉が開いた。
「山上君!詩保は?」
「部屋にいる。疲れたから今日は帰ってほしい。って愛沢が」
「そっかぁ。わかった・・・」
「おい」
リビングの奥の方から低い声が聞こえてきた。
「三原・・・・」
「話がある。ちょっと来い」
そういって玄関へ向かった。
「おい 秋維。お前・・」
蛍斗が慌てて引き止める。
「心配すんな。もう殴ったりしねぇから。少し山上と話したいだけだ」
「・・わかった。じゃあ俺も楓と帰るよ。外まで一緒にいこうぜ」
「ああ。」
「じゃあな。山上 秋維。また明日」
来た時と大分テンションが変わった少し暗い表情をした楓の手を引きながら帰っていった。
「ここでいいだろう」
普通のどこにでもあるような住宅地に囲まれた公園へと歩みを進めた。
もうだいぶ日も傾いてるので人影もほとんどない。
空いてたベンチの方へ行き、そこに腰掛けた。
遠くの方からカラスの鳴き声が聞こえてくる静けさの中秋維がゆっくりと口を開いた。
「・・お前詩保に病気のこと聞いたんだよな」
「・・・・・ぁあ。」
じっと見つめてくる秋維から目をそらし答えた。
「そっか・・。やっぱり話たんだ・・。」
「・・ッ三原」
うつむいていたが話をしようと顔をあげた。
が、その言葉を遮るように秋維が頭を下げた。
「山上 頼む。俺がこんなこと言うのは筋違いかもしんねぇんだけど、もう詩保とかかわんねぇでほしいんだ。
詩保の病気聞いただろ。・・あいつはホントに体弱いんだ。俺らが普段してる何気ないことでもあいつにとっては危険なことなんだ。ストレスとか悩みとかでも悪くすると発作を起こしちまうんだ。
だから、頼む。お前が委員長とか責任とかで詩保に会いにくんのはやめてくれ。
詩保を苦しませないでくれ・・・・」
何も言わない翔に対して
「引き止めて悪かった」
とだけ伝えて駅への帰り道だけ教えて秋維は公園を出ていった。
ガチャ
「ただいま」
「お帰り~秋維。今日は早いわねぇ。詩保ちゃんのとこ行かなかったの?」
「いってきたよ。でもそんなに体調よくなさそうだったから帰ってきた」
「あら~そうなの。詩保ちゃん早くよくなればいいのに・・・」
「ああ。ほんと早くよくなってほしいよ。
じゃあ俺部屋に行くから」
「わかったわ。今日お父さん遅いらしいから」
「わかった」
リビングから出て部屋がある2階まであがっていった。
ガチャ バタン
(はぁ。俺何やってんだろう・・・)
さっき翔にいってしまった言葉にたいする複雑な気持ちが心の中をしめているのだ。
”ブーッブーッ”
しばらくベッドに横になって考えごとをしていたら携帯がなった。
「もしもし」
「秋維 俺だけど」
「蛍斗 どうした?」
「今からお前んチ行っていいか?」
「うち?別にいいけど」
「わかった。じゃあ今からいく」
「ああ」
「じゃあな~」
ブチッ
幼馴染なだけあって親同士も仲良くそれに家も近く夜にくるというのも日常的だったりする。
だから親も突然誰かがきてもあまりびっくりしたりはしないのだ。
ピーンポーン
玄関からチャイムの音が聞こえた。
「あら〜蛍斗くんいらっしゃい」
「こんばんは おばさん。お邪魔します」
「どうぞ〜。蛍斗くん大きくなったわねぇ。」
「ほんとですか!?おばさんは相変わらず若いですね。」
「まぁ。蛍斗くんお世辞うまいんだから///」
「・・・何の話してんだよ」
「あら 秋維」
「おっ 秋維。来たぞ」
「はぁ。蛍斗部屋行くぞ」
「おぅ。じゃあおばさん失礼します」
「ごゆっくり」
頭をさげ秋維の後ろから階段をのぼっていく。
ガチャ バタン
「ったく母さんと何の話してんだよ」
「はは んな怒るなよ。あんなのいつものコトじゃん。」
ニッと歯を見せながら笑う。
「はぁ。で、突然電話してうち来るって事は何か話あるんだろ。なんだよ?」
「あー。嫌、別に話って言うか・・・」
「?」
「山上とさ、どうなったか気になって・・・・」
「そのことか・・・」
そっと呟き蛍斗が座ってるベッドの前に椅子を持っていき自分も腰かけた。
「どうなったかって聞かれても別に喧嘩とかしてねぇし。ただ・・・・」
「ただ?」
「・・・ただ、頼みごとしただけだよ」
「頼みごと?何頼んだんだよ?」
「・・・・・・これ以上詩保と関わらないでくれって」
「・・えっ!?まじで?!んなこと言ったのかよ・・」
「ああ」
「はぁ。 まぁ秋維は間違っちゃいないんだろうけど詩保になんの相談もせずにんなこと言っちゃダメだろう」
「だよな・・・。俺も言ってから思った。確かに俺の本心だけどやっぱ勝手なことはしちゃダメだよな」
「・・・」
「でも言わずにはいれなかった。殴ったのもそう。気付いたら手が出てた。俺、詩保に対してだと冷静じゃなくなるんだよな・・・」
「・・・秋維」
「山上には悪いこと言ったとは思うけどホントに自分の保身の為とかで詩保と関わってもらいたくねぇし。
あいつを苦しめるものは1つで十分だよ」
「お前ってホント不器用っていうか一途っていうか、なんか直球だよな」
「はは。性格なんだから仕方ねぇよ」
「だな」
「おい。少しは否定しろよ」
「「ぷっ あははは〜」」
「やっぱり俺らに深刻か空気とか似合わないな」
「だな」
お互いが肩を叩き合いながら笑い続ける。
コンコン ガチャ
「蛍斗くん。ご飯どうする?食べてく?」
「いいんすかっ?!食べてっても」
「今日は主人遅くて。よかったら食べてって」
「まじっすか。じゃあお言葉に甘えて」
「ふふ。わかったわ。もうすぐ出来るから話終わったら下に下りてきて。
秋維もよ。」
「はいはい。わかりました」
「やった。おばさんの料理久しぶり。楽しみ」