「今日から由衣には本郷の本宅で暮らしてもらうわね?」

―いや、ここから出たくないよ

私は首をぶんぶんと振った


 「由衣?僕がいきなり現れたから…」


と彼がすまなそうな顔で私を見てくる


 (そんな顔されたらなにも言えないよ…)

 「由衣、本郷さんのところで頑張るのよ?」
 (例え貴女が声を出すことを拒否していても彼なら貴女の言いたいこと、わかるはずだから…)


南は由衣の薄茶色の長い髪を撫でながら言った


 「せ……ん、せ」


それは南にしか聞こえない蚊の鳴くような声

それでもちゃんと南には聞こえていた