寒さと轟音に意識を手繰り寄せた時、辺りは闇ほどに暗くなっていた。


はっとして外を見ると、稲光。


こんな空色では今が一体何時なのかもわからなくて、ただパニックになった。


蘇る記憶は幼い頃のもので、停電した世界に取り残された小さなあたし。


今と同じような暴風雨と、雷鳴がとどろき、意志とは別に体が震え、耳を塞いで涙を堪えた。


誰もいなかった。


だからひとりっきりで耐えていたし、早く大人になりたいとも思ってた。


そしたらこんなの平気になると疑うでもなく思っていたはずなのに、なのに今もあたしは、雷が怖い。







「奈々!」


顔を上げた瞬間、ぼやけた視界に映るのが誰かなんてわからなかった。


でも、助けを求めるように手を伸ばすと、強く抱き締められる。


甘さと煙草の混じる香りだった。



「…勇、介…」


どうしてなのかとか、そんなことはどうだって良くて、ただ子供のように声を上げて泣いた。


怖くて怖くて、空が閃光を走らせる度に身がすくむ。


いつか彼は、今度怖くなったら俺のことを呼んで、と言っていた。


だからもしかしたら、あたしは気付かぬうちに心の中でその名前を呼んでいて、魔法使いの彼は見つけ出してくれたのかも、なんて思う。


ヒロトじゃなくて、勇介だった。