「ヒロトにさ、伝えてほしいことがあるんだ。」


やっとあたしが口を開くと、スッチはこくりと頷いた。



「距離置こう、って。」


「…うん。」


「何が大切なのかをちゃんと自分の中で見つめて、答えを出して、そんで今度は冷静に話そう、ってさ。
だからそれまで、距離を置きたいから、って。」


あたし達は今まで、互いに縋り合っていて、離れ過ぎた心とは別に、一緒に居過ぎた。


だから傷つけ合うことしか出来なかったのだろうし、もうそれを繰り返さないためには、まず自分自身と向き合う必要があるのだと思う。


今度はあんな形ではなく、心の内を曝け出すために。



「わかった、伝えるよ。」


言って、スッチは立ち上がった。


彼はきっとその足でヒロトのところに行くのだろうけど、でもあたしは、あの人が今、どこにいるのかすらわからない。


そんなことは、やっぱり悲しいと思うのだけれど。



「奈々ちゃん。」


ふと、足を止めたスッチはこちらを振り返り見た。



「俺もさゆも心配してるから、だから何かあったらいつでも言って。
何にも出来ないかもだけど、もっと頼ってほしいって、俺ら思ってるから。」


「…うん、ありがと。」


もうずっと、沙雪も不安にさせていたんだ。


なのにふたりは、それでもこんなことを思っていてくれる。



「ひとりで大丈夫?
さゆ呼ぼうか?」


「良いって。
大丈夫だから、もうヒロトのとこ行ってアイツ慰めてあげてよ。」


言ってやると、スッチは眉尻を下げて笑い、立ち去った。